「頑張れ」の難しさ       「声」と「肥え」　　　　　 伊藤 明

　いろいろなところで，「頑張れ！」の一言が子供たちにプレッシャーをかけすぎると聞きます。「ボチボチやろうか。」こんな適切な“いい加減な”言葉がよいようです。

• 　植物と人間は，似ている。
  　意外なことに植物と人間は，結構似ている面があります。次に，その似ている点をいくつか挙げてみます。
  
  
• 　根回し
  　人間の世界では，「根回し」という言葉は，なんとなく皆の知らないところで「裏取引」をするといった否定的な感じで使われている気がします。園芸の世界では，樹木を移し変える時に、予め必要な処理を済ませておくことを言うようです。具体的には，半年ほど前から根っこの先をスコップなどで切っておくことを示します。根は大切なものと思っている人にとっては，木に対してひどい事をするものだと思うでしょう。わたしも，最初はそう思いました。でもこれがとても“いい加減”に働くのです。根といっても，全ての場所で同じように働くわけではないのです。根の先端の場所が細かな根が密集していて一番効率よく栄養分を吸収します。反対に，茎に近いところは見た目は立派な根があるのですが，栄養分を運ぶ意外にはあまり働かないのです。木を移し替えるためにいきなり新しい土の中へ持っていくと，栄養分を吸収する根が全て 切られてしまい、新たな場所で枯れてしまいます。移し替える半年ほど前に，根を半分ほど予め切断していくと，切られた根のあたりに，細かな根が新しく生えます。この根を生やしてから新たな場所へ移し変えると，枯れることもなく立派に育つのです。
  　この意味からすれば，「根回し」というのは，絶対必要な準備を予め適切に行う事を指すことになります。決して，マイナスイメージの言葉ではないのです。しかしながら，土の中でよく見えないという点と，半年も先のことを気長に待ちつづけなければならないといった二つの点から，現代社会ではその本来の言葉の意味は理解されなくなってきたのではないでしょうか？
  　人間にも，根っこが多分あります。それが，土の中で見えないのでしょう。
  
  
• 　肥えの与え方
  　肥料のことを，田舎では｢肥え」と呼びます。この名前を聞いて，思わず鼻をつまむ人は，かなり田舎に育った方と思います。(あるいは，想像力のたくましい人でしょう。余談です。)肥えの一番良い撒き方があるそうです。まずは，そのバランス。栄養分が偏っていないこと。例えば，窒素肥料が多すぎると，成長は早く見た目には立派な樹木が育ちますが，病気に対して弱くなるそうです。関係がなさそうなリンやカルシウムは，病気にかかりにくくなり，花や果実を立派にするのだそうです。
  　なんとなく人間に，似ていますよね。
  
  
• 　根から離れた場所への肥え
  　肥えを茎の真下に与えても吸収しないことは，根回しのところに書いてあることから容易に想像が出来ます。栄養分を吸収する細かな根が無いところへ肥料をどれだけ与えても，ほとんど吸収されません。
  　肥えを与えるのに良い場所，それは，葉っぱの先(枝ぶりの先のあたり)だそうです。地面の中で見えない根っこは，実は目にみめる木の枝を見ればよいのだそうです。地面の中にちょうど枝のように根っこが生えていて，枝の先っぽあたりのしたが，根っこの先っぽあたりなのです。私も最初の頃は，根っこに一番近くの茎の周りに肥えを与えました。違うんですね。見えないと思っていた根っこは，実は見えていたのです。枝と根っこが似ていることに気づけばよかったのです。実は，間接的に目に見えていたのです。
  　人間の社会には，これに似たこと良くありますよね。分からない，見えないと思っているものも，見方を変えると，とてもよく分かることって。
  
  
• 　ボチボチが“いい加減”
  　化学肥料のような効果の速い“即効性”の肥料は，根が「肥料焼け」と呼ばれる病気にかかり，植物が枯れてしまうそうです。強すぎる薬は，逆に毒として働くのでしょう。ボチボチが，適切(いい加減)なのでしょう。答えを急いではいけません。
  　人間の社会で薬と呼ばれるものには，大きく分けて２つのグループがあると思います。いわゆる漢方薬と西洋薬です。一概には言えないようですが，多くの漢方薬は即効性ではないようです。効き目が遅く，その効果を直ぐには実感できません。高熱を速く下げ楽になりたければ，西洋医学による人間が作り出した薬を飲むことをほとんどの人が選ぶと思います。これらは，熱を確実に下げてくれるようです。しかしながら，高熱でない人にもその効果は現れます。“薬焼け"ですね。あるいは、副作用とも言います。一方漢方薬は，効き目は遅いのですが，副作用は少ないようです。（漢方の中にも副作用があるものもあるようですし，即効性のものもあるようですので利用にはお医者さんのアドバイスが必要です。ここでは，一般論を述べています。）
  
  
• 　「声」と「肥え」
  　４０人の子供がいるとします。みんなに同じ言葉で，「○○だから○○を、頑張れよ！」ということは，しばしばあります。家庭で二人子供がいて，その子達に同じようなことを言うこともあるでしょう。これって，漢方薬あるいは西洋薬？一体どちらでしょう。恐らく，どちらにもなりえます。目の前にいる子供の目に付くところだけを見ていると，いつも強すぎる肥え（声）とは思わず 、つい使います。でも，少し離れてみてみると，枝ぶりや葉付きを見てみると，今一番吸収する準備が出来ている根っこの場所が見えます。子供によっては，同じ声（肥え）でも肥料焼けをしたり，あるいはいい加減に働くこともあります。
  　キーワードは，アセラズとボチボチと。窒素分は少ないかもしれないけれど，効率は悪く効き目は遅いけれど，いつか綺麗な花を咲かせたり実をつけたりする，そんな日を待ちながら待つことでしょう。
  　人間と植物は，意外なほど似ていると思います。
  
  

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• 　言うは易し、行うは難し。
  　言うまでも無いことですが，頭の中で考えたことが，実行できるとは限りません。人間らしい所ですね。
  　植物は，言い返したりしませんが，人間には意思があります。こちらの気にいらないことを言ってくれたりすると，腹が立ちます。植物には，生計の為の栽培で無い限り，見返りを求めません。一方人間には，少なからず見返りを求めがちです。例えば，これだけこちらが苦労すれば，きっとこうなってくれるに違いない。こちらがこれだけ思ってあげれば，きっと向こうも自分を嫌いではないだろう，などなど。
  　人間は，植物と似ている点もありますが，あたりまえですが，全く別な点もあります。だから大変，だから楽しい，だから大好き。と言えると思います。
  　（ここに書いたことは，自分自身へ向けて書いた文章です｡何か感想がありましたら，電子メールでもお寄せください｡）