最近読んだ本

著者 タイトル 内容

 

夢枕獏 (集英社文庫) 神々の山嶺 登山に関する小説(フィクション)。久々に面白いと思える本に出合えた。二時間読んでいても、時間が過ぎるのを忘れることがしばしばあった。
増谷文雄、遠藤周作 (朝日出版社) 『親鸞 親鸞に関する対談集。実家に帰った際、学生時代に読んでいた本を何冊か持ち帰り読んだ本の一冊。25年ほど前に買って読んだのだろうけれど、読んだ記憶が全くなかった。歎異抄など、歴史的な観点から述べられていて面白かった。遠藤周作が好きな人であれば面白い一冊だと想像する。増谷先生は、実は偉大な先生だという事が、この講義の端々からうかがえた。教養を高める一冊だと思う。
P.F.ドラッカー(著)、上田 惇生(訳) 『エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則 』(ダイヤモンド社 マネジメントに関する要約集(?)。『もしドラ』を読んでから読むことにした。エッセンシャル版というだけあって、要点だけをおそらく並べてあるようで、散文的で全体としてはまとまりがない気がした。やはり、ドラッカーの著作を、一冊ずつ読む必要がある気がする。トップマネジメントに関しては、読んでいても自分とは関係ない気がしてしょうがなかった。石切り職人の寓話は、なかなか意味深だった。ウェブ上で見ると、ドラッカーの意見の反対者はいるようだが、あまりその類の著作がない気がする。「知の巨人」と反対意見を並べても、本としてはあまり売れないのかもしれない。ドラッカーが書いていることが全て正しいとは限らないと思いながら読む必要もあると思う。日本語の訳で、時々意味のつながりが不自然なところがある気がした。やはり、ドラッカーの書いた言葉をそのまま読む必要があるのかもしれない。英語版をいつか読みたいと思う。
歴史群像編集部 『創業者列伝』(学習研究社) 日本の有力企業創業者に関する歴史読み物。学科長になってから、求人関係で多くの企業の方とお会いする機会が増えた。会社の創業者の方々に関する読み物を読もうと思っていたところ、適当な本を見つけたので読んでみることに。面白いエピソードや感動する話が満載。但し、取り上げられている人物によって咲かれているページ数が大きく異なることがあり、その点のみがやや残念に思った。グンゼ、出光などなど、意外な一面を知ることができた面白い一冊だった。
岩崎夏海(著) 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 』(ダイヤモンド社 ドラッカーに関する読み物?。小説 or メネジメントの入門書? 読む人によってきっと違う気がする。両方の人が読んだから、ベストセラーになったのかも。これを読んでから、色々な日常の仕事を振り返ると、なるほどと思えることが多いのでやはりメネジメントの入門書だと思う。 自宅の机の上にこの本を置いておいたら、家族がビックリしていた。あの表紙のマンガは、若い読者をきっと引き付けるのだと想像する。これもベストセラーの一因? 次に、同じ出版社が出している「マネジメント エッセンシャル版」を読んでみることにする。(出版社の思うつぼの読者の一人になっていることにも気付く。)
小幡績(著) 『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書) 経済に関する読み物。著者の経歴からすると、もっと凄い文章が飛び交うかと期待したのだが、文章があまり練られておらず、同じ内容の繰り返しが度々でできて読む気が途中何度もそがれた。バブルに関して当たり前のことを説明してくれている。日本の為替相場がなぜこれほど変動が激しいのかについては、よく理解できた。「キャンサーキャピタリズム」という言葉は、なかなか言い得て妙だと思った。ヘッジファンドに負けない実体経済を作るのがいかに難しいかを痛感。
ハインリヒ ハラー(著)、福田宏年(訳) 『セブン・イヤーズ・イン・チベット チベットの7年』(角川書店) ノンフィクション。アイガー北壁登山に関する『白い蜘蛛』の著者ハラー氏がチベットで過ごした7年について書いた本。随分以前に読んで以来、久しぶりに読み返してみた。以前読んだ時の印象はほぼ消え失せていた。『白い蜘蛛を読んだ後に読むと、何とも言えない思いがわき上がってきた。この本を読んだ後、たまたまBSで映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』がやっていたので見た。原作のごく一部をかなり脚色してハリウッド版にかわっていた。他の原作も同じと言えばそうなのだけれど、商業ベースに乗るとこれほどかえるかと思わされる。ブラッドピットが主演で、もう一人のヨーロッパ登山家が、ハリーポッターのルーピン先生役の俳優だったのには驚いた。これから、他の本も時々読み返してみようと思った。
飽本 一裕 『今日から使える複素関数』(講談社) 数学の入門書複素関数について授業では習っても、その御利益を納得できていない人、留数定理とは?等角写像とは?という人にむいている本だと思う。(自分にはとても目からウロコという思いを味あわせてくれた。)この本は今日から使えるシリーズの中の一冊。他の本も含めて、学校の図書館に入れてもらえるよう要望書を提出した。図書館に入ったら、他の本も読んでみようと思う。授業で習う時には別々に思えても、実はそれらがつながっていると感じてもらえるように教える必要があるのだと、この本を読んで改めて思った。たぶんそのまま言っても学生にはその面白さ、醍醐味が伝わらないだろう。著者は、なかなか人に面白さを伝えるのが上手い人だと思う。
エミリオ・セグレ(著)、久保 亮五(訳)、矢崎裕二(訳) 『X線からクォークまで
20世紀の物理学者たち』(みすず書房)
物理学の読み物、科学史。物理についてあらかじめ少し知っていないと、おそらくこの面白さが全て伝わらないと思う。ボーアやフェルミなど、電子工学の授業で紹介する人物についてそのエピソードを交えて、興味深い話がちりばめられている。クォークについては、その中身を十分に自分が知っているとは言えないので、面白さが半減してしまった。キュリー夫妻のエピソードには、鬼気迫る物を感じずにはいられなかった。
本間竜雄(著)  『グラフ理論入門 点と線の数学』(講談社) 数学の読み物。講談社の(ブルーバックス)シリーズの一冊。1975年の印刷なので、自分が小学生のころに書かれた本。学校の図書館で借りたので、最後のページの返却期日のスタンプ欄を見ると、10年以上前に二人借りて、3人目に借りたのが自分だった。久しぶりに知的好奇心を呼び覚ます一冊に出会えた。行列を習っていないと理解できない箇所はあるが、如何にグラフが活用されるか、数学が如何に美しいかが感じられた。「オイラー」の偉大さの一端を垣間見ることもできた。「道」と「路」の違いや、「位相」と「幾何」の違いなど、知らなかったことが多かった。学生のうちに、このブルーバックスシリーズを全部読もうと思ったのはもう25年ほど前のこと。読んだ冊数より読んでない方が多い。人に与えられた時間が有限だという事を、近頃しみじみと思う。どんな一冊を読むか、どう読むか、きっとこれが大事なのだろう。良い本と出合えると嬉しい。
ハインリッヒ ハラー(著)、長谷見 敏(訳) 『新編・白い蜘蛛』

(山と渓谷社)

ノンフィクション。アイガー北壁登山に関する読み物。映画「セブンイヤーズ イン チベット」でブラッド ピットが演じていたあのハラー自身による、アイガー北壁の歴史が記載されている。自身の登頂記よりも、ほとんどは如何に事故・墜落が生じたかに割かれ、読んでいるとこれでもかという感じで何人もが滑落・凍死していく。最後の章で、著者の文明感や人生観が描かれそのあたりでやっと救いの様なものを感じる。
坂巻 久 『ドラッカーの教えどおり、経営してきました 』

(朝日新聞社出版)

マネジメント。「ドラッカー」に関する二冊目の本。日本の経営者がドラッカーに陶酔する理由が分かる一冊。教え通りにすれば必ず成功するかどうかは別として、会社を立て直した著者が言うのには見かけ上説得力はある。しかし、よく読みこむと自己矛盾を含む記述があり、自分で適切な判断をして工夫し続けることが「マネジメント」であるのかと思われる。メールを一日一回だけ見る生活というのには、憧れを感じた。

ピーター F ドラッカー (著)、牧野 洋 (訳)

 
『知の巨人 ドラッカー自伝』

(日本経済新聞出版社)

自伝。、ちまたで「ドラッカー」という名前がしばしば聞かれる。「自伝」というタイトルに惹かれ手にした一冊。幼少期のフロイトとのエピソードが印象深かった。正確には、聞き取りによる評論書だと思われる。日本で何故ドラッカーがそれほどちやほやされるかが書かれていて興味深かった。
沢木耕太郎 『凍』
(新潮文庫)
ノンフィクション。山野井夫妻の登山に関する読み物。登山に興味がなくてもきっとそのすごさは伝わると思う。TVで山野井夫妻は見たことがあったが、文章で読むとそのスケールの大きさがすごいと感動した。あとがきを読み、改めてそのスタイルの一貫している様は見事と言わざる終えない。「砂の女」を読んでからの一冊だったので、人間の可能性の明るい部分を確認できて気分が楽天的な方向へ向き直すきっかけになった。あそこまで人間ができるとは、凄い。
阿部公房 『砂の女』
(新潮文庫)
小説。以前から、名前だけ良く耳にしていた阿部公房の代表作。初めて阿部公房の作品を読んでみたら、面白かった。おそらく好き嫌いが分かれると思われる。前半は、理科系の著者(?)らしい論理的で読みやすい文章が進み、一旦砂に出会うと途端に抽象的(?)な文体にギアシフトして一気に最後まで駆け抜けるという感じ。「砂」とは?社会??お金??人間??価値観?? 自分なりにいろいろなものをあてはめながら、著者の意図を推察しながら読み進めるのはおもしろいかも。気軽に読みたい時には、やや内容が重いかも。
   森 博嗣 『創るセンス 工作の思考』(集英社新書) モノづくりに関する読み物。以前から、名前だけ良く耳にしていた売れっ子作家の森氏。軽いタッチで、面白く書かれていたので読みやすかった。所々で、どうかな―と思うところもあったが、ほとんどのところで納得がいく記述が多かった。単に昔は良かったというありきたりなスタイルではなく、これからどうすればよいかを示しているところが好感が持てた。当たり前のことが、当たり前に書かれていた。まずは、大人、あるいは先生(自分を含む)が自らモノづくりや、創造的、アクティブな人で頑張り続きて、次の世代がそれを見て考えて自ら動くという事に尽きると思った。さな、何か作ろう。
上野正彦

『解剖学はおもしろい』
(医学書院)

解剖学に関する読み物。法医学を専門にする著者が、それまで看護学校の学生の中で分かりにくいと有名であった『解剖学』を、一番面白いといわれるように変えた。その講義内容の雰囲気を一冊にまとめたもの。死体にかかわる記述が出てくるので、苦手な人もいるかもしれない。分かりにくいと有名(?)な私が担当している電気回路論』を面白い授業に帰るヒントも幾つか見つけた。まずは、学生ん名前をいっぱい授業中に読んで、教室内を歩き回ろうと思う。気の利いたジョークを携えて。(昨日、聞いた?)
アラン・ビーズ、バーバラ・ビーズ(著)、藤井留美(訳) 『本音は顔に書いてある』 ボディーランゲージに関する読み物。身振り手振り、身だしなみが相手にどのような印象を与えるかについて、わかりやすく書いてある。所々、本当かな?と疑いたくなる記述があったが、全体としては、なるほどと思うところが多かった。就職でこれから面接を受ける学生や、これからのいろいろな人との付き合いの中で、器おつけておくといいかなと思われるヒント集の様な気がする。きっと、海外の上流階級と呼ばれるクラスにいる人たちは、小さいころから立ち居振る舞いについても教育を受けているのだろうなと改めて思った。近頃の日本では、子供だけでなく大人までもが傍若無人にふるまっていると思う。著者の言いたいことを考えると、このタイトルは変更した方がいいと思う。『本音は指先と足先が示している』ではないかしら?(本が売れるためには、やはり顔をタイトルに入れたほうがいいのだろう。)
塩野七三 『海の都の物語〈1-3〉―ヴェネツィア共和国の一千年』 ローマの歴史に関する読み物。 本屋の新刊コーナーにあり、つい買ってしまった6冊シリーズの第1冊。以前出版された本の文庫本版。やはり、『ローマ人の物語』の作者だけあり、とても面白い。なぜ面白いと思えるかを考えてみると、なんとなくこの人の発想は、理科系的なのではないかなと思えてきた。全てのことは、情熱から始まるのだけれど、必ず何らかの技術的な裏付け(ハードウエアの確立)が必要という姿勢が見てとれる気がする。新潮社さんは、村上春樹氏の新刊と塩野さんのこの文庫版の出版で、この出版不況を乗り切ろうとしているように思えてしまうのは私だけだろうか?
スタインベック (著), 大久保 康雄 (訳) 『怒りの葡萄 (新潮文庫)


 
アメリカに関する読み物。タイトルに惹かれて手にして読み始めた本。おそらく、好き嫌いが分かれる内容と思われる。やや筆が重いと感じる箇所があるものの、全体的にはアメリカでの農民の苦労の歴史が伝わる小説。ノーベル文学賞受賞者の小説で、ピューリッツア賞を受賞しているというのは、読み終えてからわかる気がした。現代のアメリカをはじめ、日本や世界各国で起きていることと、基本的には同じことが繰り返されているということを痛感した。人間の経済活動と尊厳の両立、富の分配について考えるには良い一冊。軽い読みのもではないと思う。

 

 柴田三千雄 (著)

  『フランス史 10講』 (岩波新書)

歴史学の講義。同じ出版社の『ドイツ史10講』が面白かったので、つい手にして読んでみた一冊。フランス史の前知識なしに読んでも、あまり面白みがわかない気がした。著者が違うと、当然ながら文体も非常に異なりタイトルだけで本を選んではいけないなと改めて思った。
 堤 未果 (著)


 

  『ルポ貧困大国アメリカ 』 (岩波新書)

現代のアメリカに関する読み物。思わず二日で読んでしまうほど、中身は惹きつけるものはあった。アメリカの救急病院が最近なぜ閉鎖されつつあるかが、これを読めばわかります。久しぶりに、救いのない話を読み終えたというのが感想。やや現状分析に不十分さがあり、一足飛びに原因を決めつけている感じがところどころした。現代のアメリカの概要は言いえていると思われる。日本がこのようなアメリカの失敗の轍を踏まないためには、やはり「教育」しかないのではと思います。この本はあまりお勧めしません。若い人や人の話をすぐにすべて鵜呑みしてしまう人は、この一冊だけを読んで希望を失ってしまうかもしれません。厭世主義の生き方は、多分つらいですよね。ただし、現実を見る力とそれに立ち向かおうとする勇気があるのであれば、一つの読み物として読むのも良いかも。ただし、どんな本でも反対側の立場の著者が書いたものも読んで読み比べ、その内容を分析し比較しないとバイアスをかけられてしまうはずなので、注意を要すると思う。
竹内 一郎 (著)


 

 『人は見た目が9割』 (新潮新書)

コミュニケーションに関する読み物。本のタイトルにひかれて買った一冊。個人的には、それなりに非言語でのコミュニケーションの重要性を扱っていて、面白かった。しかし、ネット上で他の読者の書評を見ると、どれも手厳しいものが多い。思うに、本の緑の帯に書かれている「理屈はルックスには勝てない」という文書が、かなり誤解を招いていると思う。これは出版社が売り上げを増やすために販売戦略でつけたキャッチコピーではないかと邪推する。「ルックス」についてはそれほど著者は触れていない気がする。もしこの販売促進広告を著者が承諾して、あるいは発案しているなら、それはもうかなり悪人だと思えてしまう。文章を読んだ限りでは、それほど悪い人ではない気がするのだけれど、、、。本文を読めば、これは7%だけ真実なんですね。マンガを読むときに、コマ割について考察ができるようになったし。これから、プレゼンテーションする時には、パワーポイント、マンガのようにしようと思わせてくれた一冊。読み物として読むのであれば、可もなく不可もないと思う。
克元 亮 (著)

 

 『SEの文章術』   (技評SE新書)

文書作成に関する読み物。コンピュータシステムを会社などへメーカから導入する際に、コンピュータ技術者と顧客の間でコミュニケーションをとり要求しようなどを文書化するシステムエンジニア(SE)向けに書かれた、良い文章を作成するためのノウハウがかかれてある一冊。これから、自分の履歴書や、卒業論文などを書く学生には必読の一冊。
日本語を考える会 (編)
 

 『読めそうで読めない不思議な漢字』   (角川文庫)

漢字に関する読み物。いわゆるハンコに彫る難しい(?)漢字の「 篆刻矢、お店の看板、あるいは変体仮名文字などに関する読み物。いくつかの実例がクイズ形式で並べられ、素人の私にも分かるように解説されていて、Good! アルファベットの装飾文字とはまた違う趣がある、漢字文化圏の奥深さを感じることができ満足。これから博物館での昔の文書や、町の中の変体仮名や面白いフォントなどを探す楽しみが増えるきっかけを与えてくれた一冊。
J.P. マッケボイ (著), J.P. McEvoy (原著), Oscar Zarate (原著), 杉山 直 (翻訳), オスカー サラーティ  

 『マンガ ホーキング入門―天才物理学者の人生とその宇宙論』
(講談社 ブルーバックス)

科学読み物。「 マンガ」という文字をタイトルに見て思わず手にした宇宙論入門の本。車椅子に乗りながらも第一線で研究活動し続けるホーキングの人生について書かれているので、予備知識なしで読んでもそれなりには面白いと思われる。但し、やはり量子力学と相対性理論の概要を知っていた方が中身の面白さが倍増することは言うまでもない。最近、「分かりやすい」とか「入門」というタイトルがありながら中身は結構難しい本が多くなった気がするのは気のせいかな?本があまり売れなくなってきたので、タイトルで如何に人を惹きつけるかで出版社も試行錯誤しているということかと推察するきっかけになった一冊。
 ジーン・ゼラズニー (著) 

数江 良一 (訳), 菅野 誠二 (), 大崎 朋子(訳)

『 マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術』 (東洋経済新報社) 
 

効果的な発表・講演の仕方のヒント集。「マッキンゼー」というコンサルティングを専門に行う会社でのノウハウのいくつかの紹介だと思えた。前半が特に興味深く、今までプレゼンテーションでそれほど注意を払わなかった聴衆の心理を意識した発表の仕方についての部分が面白かった。来年度からの授業で、この本で読んだいくつかの点を参考にして講義をより上質なものにしようと思わせてくれた一冊。

 坂井榮八郎


 

『 ドイツ史10講  』  (岩波書店 ) 
 

歴史学の講義。『 ローマ帝国』の歴史を塩野さんの著作で読み終えたあと、ヨーロッパでその流れがどのように受け継がれて行ったかを読み解く際に非常に役立つ本だと思った。世界史をほとんど勉強しなかった私にとっては、とても分かりやすい入門書の一つ。最後の現代に関する部分はやや固さや著者の主観がかなり目立つと思った。正統派の歴史書であることに間違いなさそう。さすが岩波新書という感じ。世界がドイツの大学を見習ったおかげでどのようになって行ったか、テクノクラートという概念。日本がなぜヨーロッパ諸国の中でドイツの真似を一時期必死にしたかが分かる。現代日本あるいは世界の問題の解決策は、この本の中には私には見えなかった。とにかく面白かった。しばらくは、岩波新書をいくつか読み探ろうと思わせてくれた一冊。

ローズマリ・サトクリフ作  
猪熊 葉子訳  


 

『太陽の戦士  』  (岩波書店 ) 
 

児童文学。『オスティア物語』を読んだ後に「サトクリフ」という著名な作家を知り、図書館で読んでみたところ、これはこれは、とても児童文学という範疇を超えた、すばらしい作品でした。非常に話の展開が良く練られていて、このまま映画化してもかなり見ごたえがあると思います。近頃の映画は、なんとなく脚本が非力になりつつある気がしているので、余計その構成力に脱帽しました。ここでは詳しく書きませんが、最後に訳者のあとがきを読むと、さらに感心しました。今までに「13刷り」されただけのある良書です。この作家の作品、しばらく読んでみようと思います。児童書の良書、とても侮れません。very goodでした。
松永 和紀 



 

『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学  』  (光文社新書 )

科学一般。情報が如何にマスメディアによって意識的あるいは無意識的に歪められるかを、食や健康問題を例に挙げて解説しており、文系理系を問わず現代人の教養として是非読んでおくべき一冊と思われた。情報の受け手になる時の注意点を読みながら、逆に情報を発信する可能性があるときには、どのような点を注意しなければならないかと言うことも考えさせてくれる。マスメディアの宿命として、「よくない情報がいい情報。」というフレーズがいつまでの心に残った。
黒田 日出男 



 

『絵画史料で歴史を読む 』  (筑摩書房 )

歴史史料解読の入門書。読みやすい構成であるが、文章がところどころつながりが弱く感じられた。「鬼」や「イタチ」などの言葉や、吉備真備の唐での活躍など、なかなか興味深いエピソードが多かった。ダビンチコードのような絵画史料における約束事(コード)の解読を楽しめるようになると、美術館や博物館めぐりもより面白くなりそうなきがした。いつか暇ができたら、古文書の解読入門書にも挑戦したいと思わせてくれた一冊。
Caroline Lawrence (著), 田栗 美奈子 (訳)

 

『オスティア物語   古代ローマの謎ときアドベンチャー 』  (PHP研究所 )

子供向け(?)に書かれた推理物語。場面が古代ローマ帝国の港町オスティアに設定されていて、なかなか読み応えがあり、大人でも楽しめると思った。内容としてはやや思い面もあるが、皇帝ネロに対する現代のヨーロッパ社会の評価を改めて垣間見ることができたりする。海外では多くの翻訳版が出版されているらしいこのシリーズ作品が、なぜか日本では出版されていないようで寂しさを感じた。古代ローマ人の日常生活を感じることができる一冊。
饗庭孝男

『ヨーロッパとは何か 文化の重層的側面 』  (小沢書店 )

ヨーロッパ全体を概観するための一冊。やや表現が硬いために読みにくさを感じた。「重層的」という言葉が繰り返し用いられたことが非常に印象に残った。ローマをはじめ、いくつかの文明の栄枯盛衰がほぼ同じ場所に積層しているあたりがヨーロッパ的なのだと想像できる。一度、スペインの修道院などを訪れて壁画の中にローマ文化とイスラム文化が散逸できる場所を訪れてみたいと思わずにいられなくなった。
村上春樹

『ねじまき鳥クロニクル』T,U,V

ずいぶん前に話題になったのを思い出し、読んでみました。私の文章力では、とても内容をここには書けそうにない。きっとこの『ねじまき鳥』を他国の言語に訳した場合、翻訳者の感性がこの作品に占める割合は、他のどんな本よりも大きそうな気がした。
 以前読んだ、英国生まれのカズオ・イシグロ氏が書いた『日の名残り』をオリジナルの英語で読めば、日本語版より理解できるかな?んーん、やはり英語読解力が壁になって、日本語訳以上に意味が取れないだろうと重い断念。
 塩野七生 

 『ローマ人の物語〈15〉ローマ世界の終焉』  

(新潮社)

ローマの歴史に関する読み物。 シリーズ 最終作品。15年間、毎年一冊ずつ読み始めたこのシリーズも、とうとう終わってしまいました。個人的には、この本に関しては推敲が少し足りない気がしています。同じような話題が繰り返し提供され、やや間延びした感がします。多分、詳細に書くには歴史資料が少なく、書きにくかったと推察します。やはり、カエサルを執筆した2つの巻が一番著者の筆も生き生きとしており、衰退期に入るとどうしても筆が重くなったように思えました。年齢からすると、次のこのような大作は難しい?と思われます。毎度のことながら、巻末の参考文献の多さ、それもイタリア語の文献の多さには、とても恐れ入ります。自分の子供との付き合いよりも長いこのシリーズとお別れするのが寂しいと共に、著者の偉大際に感激することしきりです。もしこのシリーズを読むのであれば、やはり一巻目から読まれることをお勧めします。
グレッグ・クライツァー (著), 竹迫 仁子 (翻訳)    

 『デブの帝国―いかにしてアメリカは肥満大国となったのか 』
(バジリコ )

アメリカ 現代史? アメリカにおける肥満に関する問題が、どのような歴史的、政治的要因で引き起こされ現在に至っているかを事実を元に書かれた読み物。表紙の絵とタイトルはふざけた感じがするが、中身はいたってまじめ。テレビとコーラとポテト、ハンバーガー、キャンディーなど甘くて食べきれないほどのアメリカ的な食べ物から引き起こされる糖尿病の恐ろしさを知ると恐ろしくなります。急激な工業化とそれに伴う共働きによる外食は、現代日本がまさに同じ道を歩んでおり、アメリカ人への警鐘と同時に、日本人に向けてのメッセージでもあると思わなければならないと思いました。
佐伯 啓思

 『20世紀とは何だったのか―現代文明論〈下〉「西欧近代」の帰結』
(PHP新書 )

思想史?教養読み物。 分かりやすく近代の社会システムの概要を述べながら、現代日本の分析を適宜入れいているところが面白かった。ニヒリズムの言うところの「故郷喪失」は、まさにそのとおりと思う。大学の教養で聞いた哲学を思わず思い出した。ハイデガーの話し、あの頃は分かったような顔をして聞いて、テストでも合格点を取ったのに、結局何も分かっていなかったと改めて分かった。若さのなせる業か、あの頃は、「ハイデガー、ソウデッか?」などと笑っていた自分が、恥ずかしい。民族と国民、群集と大衆と公衆など言葉の使い分けが明快。「文化が商品化され、感動が消失する 複製技術革命」など、ひざをたたいてうなずくことしきり。これは、なかなか面白い。
阿刀田 高

 『安土城幻記』
(角川書店 )

歴史サスペンス?読み物。 なかなか面白い。特に、中年を過ぎてから読むと面白いのでは。もちろん、私は若いので、それほど(?)面白くないのですが、なかなか、かなり面白い。詳しいことは書かないが、重いことを軽く書きぬける筆の力は、やはり阿刀田さんが一番ではないかと、思わず脱帽。とにかく面白い。(年をとると、どうしても繰り返してしまう。
 高村 宏子、飯野 正子、粂井 輝子

 『アメリカ合衆国とは何か―歴史と現在』
(雄山閣出版 )

アメリカ合衆国に関する入門書? 歴史的、地政学的、社会的、経済的、文化的など数多くの視点から見た“アメリカ論”が分かりやすくかかれてある本。最後の章の途中まで読み進めていった時、アメリカ“合衆国”というのは“フロンティア”精神にのっとり自分たちで国を作った人およびその後に作り続けようとする人の集まりであると漠然と思い始め、それはヨーロッパにおけるオランダと同じかなと思った。最終章の執筆担当者が次のページに、この考えと同じことを書いていたのにはすこし驚くと共に、この本の意味するところが少し分かった気がして、一人ほくそえんでしまった。なかなかこのような体験をすることはまれので、かなりうれしかった。本当のアメリカはどうか?その一部は、10月からの出張で分かるかな?、
 ダン・ブラウン 

 『ダ ビンチ コード』  
(角川書店)

歴史サスペンス?読み物。 世界的なブームと聞けば、一度は読んでみようかなと思って手にした一冊。テンプル騎士団と異教と異端について、ちょうどローマ人の物語でつい最近読み終えた部分と重なり、意味が良く分かった。多分、これ一冊では話の細部が分かりにくいのでは?『バラの名前』や『フーコの振り子』といった難解な本も、先にこの話を読んでから読み始めればもう少し意味が分かりやすかったかなという思いが沸いた。文章のタッチは、なんとなくシドニー シェルダンに似ているかな??売れる本に共通な筆遣いを感じた。
 塩野七生 

 『最後の努力 ローマ人の物語]W』  
(新潮社)

ローマの歴史に関する読み物。 シリーズ14番目の、ローマ帝国“溶解”の 始まり。ローマがローマらしくなくっていったプロセスの最終局面。現代にも通じる示唆が、全編にわたりちりばめられ、最後の当時の知性を代表する二人の書簡が特に印象的。著者は、これを伝えたくてこれまでのシリーズを紡いで来たのかと思わず思える。一年に一冊ずつローマ在住の著者から日本へ届くこのシリーズも、惜しいことに来年の15番目で終わることに。(と言うことは、13年前からこのシリーズを、私も一緒に読んでいたということに。ああ、なんと時が過ぎるのは早いことか、、。)
  加藤 廣 

『信長の棺』
 (日本経済新聞社 )

日本の歴史読み物。フィクション(?) テレビなどで取り上げられることが多く、一度読んでみようと思った一冊。今までにない歴史解釈がいたるところにあった気がする。60歳を超えてから、はじめて歴史小説を書いたという著者。デビュー作とは思えない完成度の高さ。あえて書評はしないが、個人的にはやはり司馬遼太郎を超えるのは難しい気がする。そういえば、司馬さんも確か新聞記者をしながらの歴史小説デビューだったと思うが、もっと人生半ばで現役時代が長かった。どちらの著者も、デビュー作に共通のニオイを感じた。次の出版作品が待ち遠しい。
 塩野七生 

 『最後の努力 ローマ人の物語XV』  
(新潮社)

ローマの歴史に関する読み物。 シリーズ13番目の、ローマ帝国滅亡の一歩手前の時代の話。いろいろ興味深い話が展開されている。カエサルとアウグストゥスが繰り返し引用されるには、やはりこの二人の偉人の足跡の大きさが読み取れる。高校生の頃に世界史を選択しなかった私にとって、ローマ帝国がなぜ分裂しその後どうなって凋落したのかが明快にわかりとても面白さ抜群。
小栗左多里

『ダーリンは外国人2』
(メディアファクトリ)

英語に関する読み物(漫画?)。テンポの良さとカットがふんだんで、あっという間に読める軽い読み物。 『ダーリンの頭ん中 英語と語学』 の続編と思って読んだら微妙にポイントが違っており、読み終わって調べてみたら『ダーリンは外国人』と『ダーリンの頭ん中 英語と語学』 は別の本であることがと後から分かりました。個人的には、語学に関する内容があまり載っていない気がするので??、どうかなというところもありました。先日読んだ『物語 オランダ人』の内容を思い起こしながら読むと、また違った視点で楽しめました。
倉部 誠 

 『物語 オランダ人』   (文芸春秋)

オランダ人に関する読み物。 著者が冒頭で『物語』とタイトルにつけた理由をわざわざつけていることを忘れ、一部分のみを挙げてオランダ文化論とすると間違った理解へ導かれる気がした。最終まで読み終えると、本文で紹介されている「善意の連鎖」が起こる期待を胸に本を閉じることができると思われる。この手の本の日本人に関するものを読んだとき、我々日本人ははてさてどのような対応をするのだろうか?個人的には、オランダへ行く前に読んでいくのをお勧めの本。実際にフローニンゲンで出会った人たちの顔や、アムステルダム駅で電車に描かれていた柔道とアイススケートの絵が、本を読んでいるときに浮かんでは消え懐かしく思えた。
竹村公太郎

 『土地の文明 地形とデータで日本の都市の謎を解く』 
 (PHP研究所)

歴史に関する読み物。 今まで読んだことがないパターンの歴史分析。著者は、建設省のインフラ担当者としての視点で過去の歴史を振り返り分析をしている。ここに紹介すると面白さが半減するのであえて書かないが、とにかく面白い。例えば「水」に関する分析は、すばらしくて感動を覚えました。
小栗左多里&トニー・ラズロ

『ダーリンの頭ん中 英語と語学』
(メディアファクトリ)

英語に関する読み物(漫画?)。テンポの良さとカットがふんだんで、あっという間に読める軽い読み物。 先日、NHKテレビの『英語でしゃべらナイト』でトニーさんと、巻末対談の町田先生が出演していました。面白いトーク同様、本文もなかなか示唆に富んだ語学学習のコツや面白みが紹介されています。「the」の発音に関する箇所が、特に印象的でした。
俎(まないた)倶楽部

『信長の朝ごはん 竜馬のお弁当』
(毎日新聞社)

日本の食文化の歴史に関する軽い読み物。 古代からの食に関する雑学集。見開き二ページで完結した話題なので、時間があるときに読むのに向いている。栄養を気にして、食事を取ろうという気になる一冊。
阿刀田 高

『アーサー王物語』
  (講談社)

イギリスの代表的な冒険もの。児童向けの「痛快 世界の冒険文学」の一冊。 小学生の子供にと思って手にした本を、思わず大人の私も読んでみんとし読みにけり。これは、日本の今昔物語、あるいは浦島太郎か桃太郎といった感じの読み物だと思えた。ヨーロッパやアメリカの文学や映画で繰り返し設定される話の舞台のいくつかの原型がこの話しの中にある。「スターウオーズ」や「ロードオブザリング」、「レイダース」といった映画もこれを知っている人が見ると見ないとではだいぶその理解度が変わるのではと思える。あとがきに、アーサー王物語と歴史との関連が述べてあるのが特に面白かった。テンプル騎士団の形成時期との関連もこの物語が民間に広まった背景の一つにあるのではと個人的には思えた。阿刀田氏の文章は軽快で、小学生を文学に誘うために書かれた一冊ではあるが、十分大人の読者もひきつけるにたると思えけり。
阿川尚之

憲法で読むアメリカ史 (上)
PHP新書

アメリカの歴史、政治学、法学の読み物先月読んだ(下)に引き続いて、南北戦争までのアメリカの歴史に関しての読み物。下巻よりは、個人的には上巻のほうが面白く感じたのは、経済の話題が少なく歴史の話題が多かったからと思う。やはり、先に上巻を読んでから下巻を読んだほうがきっと面白かったのだろうと、後から反省。
阿川尚之

憲法で読むアメリカ史 (下)
PHP新書

アメリカの歴史、政治学、法学の読み物。歴史に興味があれば、最後まで読み通せると思える一冊。アメリカ合衆国がなぜ合衆国なのか?二大政党制、最高裁の裁判官の役割とその新任が占める重要性など、アメリカの法律の解釈の時代変遷を知らねば分かりにくい分野について鋭く平易に説明してくれる。まだ上巻を読んでいないので、ぜひ機会があれば(上)を読みたいと思っています。
クリストファー・ベントン

『ハリーポッター vol.1が英語で読める本』(コスモピア)

読み物を読み解くための読み物。世界中の子供たちを活字の世界に戻すのにやや貢献した小説『ハリーポッター』の解説本。ここでその中身を紹介するのは、著者に失礼なので省きますが、ハリーポッターが好きな人なら、楽しく読めると思います。ここに書いていませんでしたが、私は実は今まで全て読み・映画化されたものも観ているのです。(全て日本語で。)現在英語版のハリーポッターと格闘中。
杉 晴夫

『筋肉はふしぎ』
(講談社)

科学の読み物。講談社が中学生や一般の社会人の皆さんを対象にシリーズ化している’ブルーバックス’の一冊。著者は第一線で活躍してきた研究者で,ノーベル賞受賞者のハクスレー氏との記念写真が掲載れていることからも,そのすごさがわかる。一般的な筋肉の軽い話しを期待して読むとやや難しい話と思えるかもしれない。専門的に筋肉についてこれから勉強しようと思っている人には,きっと良いガイドになること間違いなしの一冊。
藤本 強 

『考古学は愉しい』
(日本経済新聞社)

歴史読み物。いくつかのトピックの集まり。特に面白かったのは,2章の「イヌと日本人」と3章の「吉野ヶ里遺跡を掘る」。以前に梅原猛氏監修の歴史読み物にも、日本の縄文時代と弥生時代の人骨の傾向が変化しており、時を同じくしてイヌの骨も変化しているという生地を読み面白いと思った。この詳細な説明があり,古代人がイヌと一緒に日本に来たことが思い浮かぶ。吉野ヶ里遺跡の章は,NHKのプロジェクトXでちょうど出演していたご本人による記事で,映像を見た後の文章はよりリアリティがあった。あまり軽いタッチではかかれていない印象があるので,各内容に関して一度ほかに予備知識を 得てから読むことをお勧めします。
高野 澄

『藤堂高虎』
(学研M文庫)

歴史読み物。軽いタッチで,わかりやすく書かれており,司馬遼太郎に匹敵する歴史読み物作家と思うのは,私だけでしょうか?戦国時代に織田,豊臣,徳川と常に勝者の部下であり続けたがために,あまり人気がない武将というイメージがあるが,たまたま生まれた場所と出会った人が最終的に勝者でなかったがために,主君を変えざる終えなかっただけとも思えました。三重県の津や伊賀上野のお城の他に,江戸城なども手がけており,(石垣作り)=(藤堂高虎) という,見事な一芸を持ったがために歴史の荒波を乗り越えられたのを知りました。

林 望

『イギリスは愉快だ』(平凡社) イギリス文化紹介?『イギリスはおいしい』に感動して,同じ軽さを期待して読み始めたら,少し色合いが違うのに気づき,読み終えると全く違う,大人の読み物だったなーというのが感想です。短編作品を集めたもののため,やや話しのつなぎ目に不自然さが目立ちました。古きよきイギリスの面を垣間見ることができます。イギリスの個人主義の尊重の伝統と,他人への寛容さ,そして何よりいい加減さに日本にない面を見ることができました。

林 望

『イギリスはおいしい』(平凡社) グルメ読み物&イギリス文化紹介?NHKの英語エンターティメント番組『英語でしゃべらナイト』のイギリス文化の紹介で出演した時に,初めて著者を知りました。軽いタッチですいすい読める本で,一気に読み終えました。きっと日本食をおいしくない外国の人たちも同じ様な思いをもっているのだろうと想像しながら読みました。食文化を理解するのは,完全には無理なのでしょうが,少しはかじってみたいなと思わせてくれた一冊。

小川洋子 

『博士の愛した数式』(新潮社)数学に関する物語&大人の恋の物語?「今売れている本」の一冊らしいです。知り合いの方からお借りして読ませていただきました。久しぶりに”せつない気持ち”が胸いっぱいに広がるお話で、足元から頭の先まで徐々に感動の熱波が駆け上がっていくという感じを持ちました。個人的には、辻邦夫の『西行花伝』と、向田邦子の『思いでトランプ』を読んだあとの感動に似ていました。
 塩野七生 『ローマ人の物語
迷走する帝国 ローマ人の物語XI』
(新潮社)I
歴史に関する読み物。衰退期のローマ帝国に関する明晰な解析が面白い。中でも,カラカラ帝の法律のその後に与える影響は,恐ろしいほど大きい。「改革」「改善」は,善意により行われることが多いが,必ずしも結果は本人の意思と違うことが多いというのが,思わずうなずける。毎年1作ずつ書き下ろされてきた本シリーズ全15作も,残り3作。2006年の完了が,待ち遠しい。
 多湖 輝 『頭の体操
( 光文社)
クイズ,パズル。大ヒットシリーズの一冊。発想の転換,常識にとらわれないものの考え方を与えてくれる。
 山本昌宏  岩波講座 物理の世界2『制御する 逆問題入門』
(岩波書店)
応用数学に関する読み物。理学系、工学系の問題を扱う際に有用な、逆問題の入門書。具体的な数学的な記述は少なく、考え方に力点がおかれている。最終章のチホノフ正則化については、わかりやすい概略の解説がある。
ロバート・ジンマーマン,フレデリック・オルネス(著) 武藤覚、小泉悟(訳) Computer in Education and Research『物理学のためのMathematica 古典力学から宇宙論まで』
(ピアソン・エデュケーション)
数式処理ソフトウエア Mathematicaの活用の仕方の解説。数多くあるMathematicaの具体的な説明書の中でも、かなり骨のある内容。一見難しく見えるが、一度別の本でMathematicaの概略を理解してから読むと、具体例が非常に有用で大いに活用できる一冊。
  松浦、吉田、小泉  『物理・工学のためのグリーン関数入門』
(東海大学出版会)
応用数学に関する読み物。
 志賀浩二  『ベクトル解析30講』
(朝倉書店)
数学に関する講義風の読み物。大学の一般教養での数学の講義風の本。
 都築卓司  『なっとくする 虚数・複素数の物理数学』
(講談社)
応用数学に関する読み物。工学系、特に電気電子系の学生が交流などの波を扱う際に有用な、複素数表現に関する解説書。タイトルが一見、初心者向けの本の印象を受けるが、これを本当に理解するには、かなりの内容についてあらかじめ理解しておくことが必要と思われる。専門書を読む中で久しぶりに、「感動」しながら読めた一冊。是非お勧め。
M.ミッチェル・ワールドロップ 『科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち
「複雑系」』新潮文庫
科学に関する読み物。専門的内容が多く、やや難しいと感じた。物理、情報、経済、数学の各分野の最先端にかかわるタイトルどおりの天才の人物が、そのエネルギーを随所に見せるサクセスストリーの集まりといった様子。(創発、集合的挙動、自発的組織化、カオス、人工生命、進化、遺伝アルゴリズム)といった内容の背景を理解するには適していると思われる。エントロピーが増大し乱雑さへ向かおうとする自然界の中で、なぜ生命は進化するといった一見逆向きの反応が起きるのか?人間の体は、単純な遺伝子のルールだけで、なぜ複雑な動きを制御できるのか?なぜ、一年後の天気を正確に予想できないのか?人間の瞬時の判断は、本当に最適な答えを探しているのか?なぜ株価は、急変するのか?などといったことの答えが書かれている。自分の専門分野で、彼らのようなホームランは打てないにしても、自分が納得できる仕事を成し遂げたいと心から思わせてくれる一冊でした。
高島俊男 『漢字と日本人』

文藝春秋
漢字に関する読み物。いつも何気なく使っている「漢字」が,どんな由来でどんな特徴をもっているかを,わかりやすく教えてくれる一冊。後半は,ややかたい文章が続く気がした。日本語と,漢字やアルファベットといった外来の文字・言葉との関係について,改めて「目からウロコ」といった“かんじ”。例えば,地名の「和泉」の和をどうして読まないかが,これでわかる。漢字は,音だけでなく意味(言葉)も一文字で表し,和語(やまと言葉)とは必ずしも一対一対応でないというのは,まさに今の英語と日本語との対応。言葉の使い方は,その国民性の物の捕らえ方を顕著に表しており,兄弟が年上か年下かを気にする儒教的な中国・日本と,単にbrotherと言う英語との違いがその例。そう言えば,叔父さんと伯父さんのどちらも英語では,uncle(おじさん)ですね。ただし,この二つの漢字も今では,結婚式の座席表程度でしかあらためて見ることがなくなってきた気がします。これこそ,著者が言いたかったことの気がします。「情報」に関与する技術者の人たちは(私も含めて),言葉を単に道具や部品と見なさず,文化の要素と見なすことが大切だと思い知らされました。
大西泰斗 『英文法をこわす 
  感覚による再構築』

NHKブックス
英語に関する解説書。(?)「TOEICでなかなか点が取れない」時に,目からウロコが取れるような気になるであろう一冊。私たち日本人がふだん言葉を使う時に,“それ”と“これ”の使い分けを意識せずに使っているように,言葉に表しにくい(著者が言うところの‘非言語,未分化’な無意識レベルで,‘自然に’私たちが行っているのと同じ事を,英語を母国語にしている人たちもしているという,言われてみればあたりまえのことをわかりやすく書いてある本。2003年1月30日発行であるので,まだホヤホヤ。(個人的には,引用されている英語の例文がちょっと私の趣味でないところが合ったのが気になりました。)この著者の他の本も読んでみるのが良いと思います。私も本屋に買いに行ってみます。
本多敬介 『超音波の世界 
  -未来に何をもたらすか-』

NHKブックス
超音波に関する読み物。超音波の開発に係ってきた本多電子の所長である著者が、やさしくその原理と応用について書いている読み物。中でも面白かったのが、こうもりやいるかの超音波レーダは良く知られているが、バッタや蛾といった昆虫がいかにこうもり等から捕食されないように身を守っているかは面白かった。また、光ファイバのように水中で超音波が多重反射を繰り返しながら、地球の裏側から伝わってくる音の道があるのも面白かった。月の裏側がわかる時代に、海底の様子が意外と測定するのが難しいことに驚いた。
池谷 裕二 『記憶力を強くする 
  -最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方-』

講談社
記憶・脳に関する読み物。ものを覚えたり,思い出したりといった日常の脳の活動を,科学的に読み解く事が出来るお勧めの一冊.これを読んだ人は多分,先ず復習・睡眠・好奇心を持つなどなどの具体的な方法を実践してみるのでは、、、。この夏,和歌山へ旅行に行き,南方熊楠記念館を訪れました.きっと,かの大天才は,生まれながらにして脳の使い方が効率的だったのでしょうね.(努力をするのは当然として.)講談社のブルーバックスにしては,やや専門用語が多いかもしれませんが,読んでみて損はないと思います.
萩原 睦幸 マンが『ISO入門
 -規格のポイントから認証取得対策まで-』

サンマーク出版
経済に関する読み物。「アイ エス オー(ISO)」という名前を聞いた事はあるけれど,具体的に何のことかがわからない人にお薦めの一冊.読むというより,見る?本(マンガ??)会社の仕組みの一端がわかる.文書管理に関しては,実際就職したら自分自身にかかわる現実的な問題となるのでは?ちゃんと勉強し始める前の,全体の概要をつかむ為に読む入門の入門書.
武者 利光 『人が快・不快を感じる理由』

河出書房新社
科学に関する読み物。「1/fゆらぎ」に関する読みやすい読み物。道路工事の音が何故うるさくて、音楽が何故心地よいかが分かる。日本古来のゆらぎが多い生活から、現在は、西洋的な生活に移ったためにストレスが多くなったと著者はしきりに繰り返している。特に、情報系をこれから専門にする人が「感性」について考える際に、教養として読んでおくと良いかもしれない。
岸 宏子 『木っ端聖 円空』

中日新聞本社
歴史読み物。後書きによると、昭和49年3月から6ヶ月間東海ラジオで毎日5分間の「ラジオ小説」として放送された話の書籍化したもの。この本を選んだ理由は、私の出身地に‘円空生誕の地’という場所があったから。会話の中には、懐かしい‘岐阜弁’がいたるところに用いられ、‘竹ヶ鼻’や‘逆川’などの地名は、小学校や中学で過ごした場所のものだった。歴史事実にかなり脚色がある気がしたが、毎日5分間だけ朗読で人をひきつけるには、このくらいの話の盛り上がりを作らなければならないのかとも思った。全体的には読みやすい話。(内容としては、かなり宗教性が高い気がした。)これを読んで、また生誕の地や円空仏が見てみたくなった。この本の貸し出し印を見ると、本校の図書館から昭和54年、58年、平成10年と過去三回貸し出しがなされている。図書館の本で、既に誰かが読んだとわかると、なんとなく「嬉しい気」がする。自分と同じ興味を持つ人が、どこかにいるのがわかる気がして。
藤島 啓 『ピエゾセラミックス』
ハイテク時代の陰の立役者
裳華房
科学の入門書。腕時計やガスコンロなどの中に用いられているピエゾセラミックに関する、読みやすい入門書。数式がほとんどなく、わかり易く記してある。第一線の著者だから書ける、技術史に関する深い洞察がいたるところにある。電気材料をこれから勉強したい人には、お薦め。
カズオ・イシグロ 『わたしたちが孤児だったころ』
早川書房
文学。日本生まれ、英国国籍取得で数々の文学賞を受賞した有名な著者の最新作。(?)『日の名残り』を読んだ時は、典型的な英国スタイルの文学と感じた。『充たされざる者』は、途中で挫折してしまった。『ソフィーの世界』と同様に、物語内の語り部(主人公)が“信頼できない語り部"(本書の後書きから引用)となり、話が論理的でなくったりし、幻想の世界へ入り込んでいく傾向があるように感じた。私の個人的感想としては、最近(?:古典に対して)の文学は、このようなスタイルを楽しんでいるような気がする。『フローベルのオウム』や『フーコーの振り子』もそんな気がした。論理的な説明を求めようとして読むと、ややくたびれる気がする。(但し、これはあくまでも個人的な感想。)実学ばかりやっている頭を、たまには非現実のシュールな世界に誘う良い文学書と出会うのも良いかもしれない。
 ちなみに本書は、“探偵もの”のスタイルで書かれた子供から大人への移行に関して書かれた本だと思う。『日の名残り』と『充たされざる者』の間ぐらいの読みやすさと感じた。
野口悠紀雄 『インターネット「超l活用法2001」』
講談社
ハウツー本。入門書。インターネットを、これから使おうという人にはいいかもしれない。ある程度知っている人には、読み飛ばすページが多い?理系向けというより、文系向け??「B to B」と聞いて意味がわからない人は、読んでみるといいかもしれない。著者自身が行っているように、日進月歩?のインターネットの世界では、2001年版は既に古い気がした。例えば、ブリタニカ百科事典は、数行のみフリーで、詳しくは有料という具合に変更が既に行われている。
塩野七生 『ローマ人の物語]
 全ての道はローマに通ず』
新潮社
ローマの歴史。一年に一冊ずつイタリアに住む著者から日本へ届く“定期便"。最近は、マスメディアに著者が現れる事が多くなった。「おわりに」(あとがき)に著者が、平和について述べている。2001年秋としか記されていない。9/11より以前か後かが気になった。恐らく後だろう。アメリカでの連続テロ事件を受けて、後書きは書かれていると思う。
 全体を通して、これまでの第1巻から9巻までとはスタイルを変え、ローマの文明的な生活をする為に必要と考えたインフラ(道路、水道、郵便、病院、医療、教育など)について書かれている。日本がまだ竪穴式住居で文字を持たない時代に既に、ヨーロッパでは今のような“文明的"な生活、言い換えると“公"と“私”の両立が既になされていたのには驚く。火山噴火により生き埋めになり、おかげで今でもその姿をほぼとどめているポンペイのローマ時代の生活を再現している展覧会が、今年の春休みに名古屋でも開催される。機会があれば、一度訪ねてみたいと思う。ローマについて知りたい人は、この第10巻以外を読まれる事をお薦めする。歴史よりも、社会システムに興味の比重がある人は、まずこの本から読み始めると良いかもしれない。次巻が待ち遠しい。
井沢元彦 『逆説の日本史〈5〉
中世動乱編―源氏勝利の奇跡の謎』
小学館
歴史読み物。このシリーズは以前から『逆説』と強調する割には、司馬遼太郎など他の作家の意見をかなり引用していると思う。ただ、一般的でない解釈が多く載っているので、ついついいつも読んでしまう。一つの考え方としては、面白いかなと思う。歴史に限らず、いろいろな現象を多面的に見るのは意味があると思う。“大岡裁き”や“判官ビイキ”などの考察は、とても面白い。戦略と戦術の違いは、司馬さんが以前述べていた事の繰り返しだが、源頼朝と義経にこれを当てはめている。北条氏と藤原氏、どちらも実質政権担当者が表舞台に立たない理由も奥深い。全てが、現代の日本を読み解く重要なキーワードになると思われる。
梅原猛、中上健次 『蘇る縄文の思想』
有学書林
文化論。講演会録、雑誌投稿記事(短編)。哲学者である梅原猛氏自身が書いた文章を読むのは、これが初めてであった。読みやすい文章のスタイル。仏教伝来以前の日本の土着思想についての解説。安田喜憲氏の本と同様、森と文明の共生について熱く語っている。柳田邦夫氏の稲作南方渡来説に対する多角的検討は、非常に面白いと思った。
なだ いなだ 『TN君の伝記』
福音館書店
歴史小説。子供のための童話?自由に対するエッセイ?精神科医である著者が書いた珍しい歴史小説。根本的なところは、司馬量太郎と同じと思う。明治から昭和へ続く日本の分析が鋭くされている。TNとは誰かをちゃしゃが本文では明かさなかったのでここでは触れないが、ルソーの社会契約論について造詣の深い人物(ヒント)。例えば、選挙の時に毎日顔と名前だけを見せられるとその人物のことを良く知らなくても、なんとなくいい人と思えてしまうことがある。ほんの20年前までどのようなことを発言していて、今の主張が何かを気にかけず、変な思い込みで投票してしまう。そんな事例を精神科の著者が例にあげている。同じことは、私たちの日常で多いかも。あの難しそうな先生の授業も難しい、反対にあの先生の科目はやさしい。先生の印象で科目の難しさも連動していない?TN氏とは、誰か??著者はそのような事前の思い込みを排除する為に、イニシャルでのみ表記している。従来の西郷隆盛感も一変するような、歴史小説としてのお薦めの一冊。
なだ いなだ 『おっちょこちょ医』
筑摩書房
小説。子供のための童話?医療、思想等のエッセイ?著者によると高校生程度を対象にした“童話"とのこと。前半は医療問題、後半は反戦思想的な内容が主。間違えばかりをするおっちょこちょいな主人公のお医者さんと、その周りの暖かな人々のホンワカした読み物。間違えるけれど、絶対にうそを言わないというあたりが、なだいなだ氏のいつもの軽快な文章の中に力強く述べられている。もしかしたら、なだいなだ氏の作品の中で、一番のお薦めになるかもしれないいい作品(だと思う。)
中村修二 『怒りのブレークスルー』
 常識に背を向けた時
「青い光」が見えてきた
集英社
青色LED,レーザダイオード実用化技術者のサクセスストリー&エッセイ。徳島県の阿南市にある日亜化学という中小企業において、画期的な発明である青色発光ダイオード(LED)をいかに開発化したかの物語。光の三原色で最後まで実用化が難しかった青色を実現させ、壁掛けテレビや信号機、白色照明などが身の回りに存在し始めたのは、この著者の“集中力と継続力”を伴った努力のおかげ。日本の教育・社会システムへの不満・提案が随所にある。学生にはお薦めの1冊。マスコミでも多く取り上げられている為か、巻末には2001年4月10日第1刷とありその20日後(同年4月30日)には既に第3刷が行われていることからも、人々の耳目が集まっていることが分かる。
司馬遼太郎 『最後の伊賀者』
講談社文庫
歴史小説。短編集。司馬さんの初期(?)の作品が集められている感じで、文体が晩年の作品と比べてやや違う感じがする。‘読み物‘的な作品が多い。収められている7作品は、下請忍者、伊賀者、最後の伊賀者、外法仏、天明の絵師、蘆雪を殺す、けろりの道頓。忍者に関する作品は、“非情さ"がちりばめられており読んだ後、寂しさを感じた。最後の作品は、大阪の道頓堀を作った秀吉と同時代の人物に関するもので、ずいぶん前に西田敏幸主演でNHKでドラマ放送された。
司馬遼太郎 『この国のかたち』(1)〜(5)
文藝春秋
歴史。エッセイ。社会学。思想。雑誌への連載記事を集めたもの。内容が一部重複する点を除けば、読みやすい。元新聞記者から歴史小説家になった司馬氏だけあって、経済学的にあるいは思想・文化的などの多面的視野から歴史事実を分析している。著者の生い立ちや、何故歴史について書き始めたかについてかかれてあるところを読み、感動。『竜馬がゆく』などの本は、この本に書かれてあることを言うための一冊だったと。日本近代の特異性とその必然性について、著者の鋭い分析が光る。この本は、シリーズで多くあるので、これから先も読み進めたい。それにつけても、司馬さんが後10年永く生きていてくれたら、近代に関する良い小説を史実と独特の時代分析により書き上げてくれたと思うと、非常に残念。
R.P.ファインマン 『ご冗談でしょうファインマンさんU』
岩波書店
エッセイ有名なノーベル賞受賞者である物理学者ファインマン氏による一冊。とても読みやすくあっという間に終わりのページへたどり着く。ものの考え方について、とてもユニークな所が憧れの的。ブラジルでの教育に対するコメントは、日本にも今当てはまる気がする。あるいは、アメリカの数学の教科書の内容についても。天才の頭の中を、ほんの少し垣間見た気にさせてくれる。この本を読み終えて、岩波書店の『ファインマン物理学』を2冊借り、電磁気学などについてもう一度勉強をしなおすことに。確かに、序にはボンゴをたたくファインマン氏が載っていて、これまた小さな感動。このことについては、本文を読めば分かるはず。
なだいなだ 『透明人間 街を行く』
文藝春秋
エッセイ精神科医でもあり作家でもあるなだいなだ氏の雑誌連載記事を集めたもの。著者名を明かさず、“透明人間”として昭和の世相を批評している。教育問題など、なだいなだ氏らしい切り口で軽快に読みこなせる一冊。
村上三島 『書と人間』
ブレーンセンター
書道。日本の書道を代表する著者の、5回にわたる講演会の様子を収録した一冊。読みやすく、文字を書くことについて再考を促してくれる。特に印象深いのは、(人に教えること)(聞き上手)についての話題。個性を追求する前に、読める文字を、それから自分らしい字をとの言葉には、とても耳が痛かった。現在、小学時代に使った書き順が載っている「漢字を覚える辞典」尾上兼英、川嶋優(旺文社)を時々見ては、書き順ととめ払いについて復習中。
塩野七生 『ローマ人の物語\ 賢帝の世紀』
新潮社
歴史・政治。1〜2世紀ローマの皇帝トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスに関する内容。日本では、まだ文字すら使わない時代、西洋では法律に従い、多民族を包容しながらパクス(平和)を維持していたとは、驚き。中でもハドリアヌスが各地を巡回したとき、エジプトの学者たちが本来の仕事(研究)をしていないとして叱咤するあたりは、現代の公務員への忠告とも取れる。自作が発表される来年が、待ち遠しい。
福井謙一  『学問の創造』
佼成出版
ノーベル賞を受賞した著者の、科学に対する考え方を紹介した本。既存システムの(制度的疲労)によるほころびに対する、独創的な提案の対談をまとめたもの。ファーブル昆虫記を熟読し、野山を歩き回った少年時代。暗記物の化学から、数学と物理によって計算できる化学への挑戦。人間の、生物的存在と科学的存在との矛盾。論文などの文献の読み方と、基礎学問の重要性。などなど、面白いことがいろいろ載っている。
森 毅 『東大が倒産する日』
旺文社
既存システムの(制度的疲労)によるほころびに対する、独創的な提案の対談をまとめたもの。大学の 独立行政法人化など、具体的な提言が面白い。30代に何をするか、これが大事との言葉には、とても身を引き締められるものあり。対談をまとめた体裁にしては、推敲が十分なされていないようなところが気になり、やや読み進むに難を感じた。
塩野七生 『危機と克服 ローマ人の物[』
新潮書店
危機管理術。度重なる“内乱”により皇帝が1年間に3人も交代するといった“危機”に直面するローマ。この危機を載りきるために「健全な常識人」を求め、その登場により再び安定期を迎える予感がするローマ。文献や史料のみで判断せず、後の皇帝たちがその政策を支持し運用したかで“本当の判断”をするところが、歴史学者と異なり、哲学者・作家である著者の真骨頂。世紀末を迎え右往左往する現代人たちへ向けた、著者からの熱いメッセージか。
石川博友 『穀物メジャー』
岩波新書
穀物商社。アメリカの穀物を取り扱う商社の実態を扱った社会学入門書。執筆された時期がやや古いものの、内容は現在でも通用するものと思われる。最近話題を集める遺伝子組換え植物・バイオ関連技術などの背景に、これら穀物商社が関与しているというのが著者の主張。これが正しいとすると、日本のバイオ関連技術の展開にはかなり暗雲が広がると思われる。社会面のニュースの理解を高めるのには、お勧めの一冊の本。
河口慧海 『チベット旅行記』
  (1)〜(5)
旅行記。明治時代、鎖国のチベットへ単身仏教の原典を求めてヒマラヤを越え、多くの困難に打ち勝って全くの単独で行われた探検旅行記。14才の時から漢学を、20才頃から英語、梵語、インドの古語であるパーリ語、探検中はチベット現地の言葉を随時学びながら進むといったかなりの向学心には全く敬服。途中の苦労話は、そこいらのマンガの及ぶところなし。
安田喜憲 『蛇と十字架』 文明と環境に関する読み物。著者は三重県出身で、地球物理学の第一人者。地層をボーリングし、太古の大気や花粉を分析し、その時代の環境を分析し、森と文明の関係を解き明かしている。ギリシア、イースタ島、スペイン風邪、日本の蛇信仰などを言及。
塩野七生 『ローマ人の物語』
  T〜X
イタリア在住の著者から毎年一冊ずつ日本へ送られる定期便。ローマの歴史を最初から学ぶのに抜群。著者の政治バランス感覚は優れ、歴史読み物としても、政治学の読み物としてもgood。著者は、カエサルが特にお気に入りの様子。私は、ハンニバルあたりが特に面白いと感じた。X巻では、次第にマイナーなあたりへ突入。余談だが、ボストン美術館で,ネロの銀貨を見たときには、体を突き抜ける感動を感じた。本の中にちりばめられた写真をいつかこの目で見て回ることが出来ればと思う。
塩野七生 『神の代理人』 ローマ法王に関する歴史読み物。中世ルネッサンス前夜のヨーロッパの理解に最適。
多湖輝 『心理学トリック』 タイトルとうりの内容。お馴染み「頭の体操」の著者。この著者の「ホイホイ記憶術」という本のおかげで受験勉強が、わりと(?)楽に過ごせ感謝感謝の大先生。アキラという名前は、決して他人と思えない。
 



お勧めの一冊

『人間、この非人間的なもの』 なだいなだ著、筑摩書房

 ークトゥエイン著「不思議な少年」(岩波文庫)を友人から薦められ、今から15年前の二十歳の春に読みました。この本は人間の醜い心の部分について、おとぎ話のスタイルでいろいろ書かれています。人間に対する夢や希望を否定された気がして、学生だった自分は、かなり落ち込んでしまいました。(実は、この本はマークトゥエイン自身が書いたものではなく、未完成の遺作‘不思議な少年44号’(角川文庫)を後世の人が加筆完成させたということを、後に知りました。)この本で、人生に対する悲観主義者の入り口をくぐった気がしました。
 日後、本屋の書棚で「なだいなだ」という耳慣れない作家の背表紙が、目に飛び込んできました。何気なく購入し読みすすめていくと、なんと「不思議な少年」の反対の内容が書かれていました。悲観主義からもう一度楽観主義へと、180度+180度で360度、一回転した頭の中は前よりも、はるかにさわやかになりました。動物は、自分の子供を献身的に世話する。一方、人間は時に我が子に対して‘非情な’振る舞いをし、時には殺してしまうことすらある。但し、動物は本能に従うのみに対し、人間は考えることで時には素晴らしいことを見つける。非人間的な行動の可能性と同時に、前の世代にない発展もあり得ると。目からウロコが取れ、ページをめくるたびに体中が熱くなったのは、この本との出会いが最初で最後です。
 しあの本を、「不思議な少年」より先に読んでいたなら、あれほどの感動はなかったと思います。また、人生のあの時期であったから、余計に心にしみ込んだのかも知れません。たぶん子育てと同様に、読書に対しても一番吸収しやすい時期と本の種類があるのではないでしょうか。栄養は、その適切なときに適切な量与えると最も効果があると思います。
 生諸君には、よく耳にすることですが、いい本と是非出会って欲しいと思います。私の場合、‘なだいなだ’さんの本でした。その後何冊も読みました。読みやすく、それでいて、さすが精神科のお医者さんといった感じで、読者の心をとらえて来ます。ちなみに、「なだいなだ」とは、スペイン語で「何もなくて、何もない」の意味だそうです。このペンネームのつけ方あたりからして、性格が現れていると思います。なだいなだ全集が出版されています。いつか全てを読めればと思い、その日を楽しみにしています。


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